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先日、お客さんに初めて訊かれた。
「あのカフカのポスターは今でも手に入りますか?」と。
おそらく手に入らないとぼくは思う。
今から36年前のことだ。ぼくがこのポスターを当時の友人から旅の土産としてもらったのは。
彼がどういう友人だったか、それはここでは割愛しておく。普通では友人とはなり得ない微妙な関係ではあったとだけ付け加えておく。
彼はユダヤ系英国人の女性と国際結婚していた。おそらくハネムーンの一貫としてのヨーロッパ旅行だったのだとぼくは理解している。
1984年。
フランスのポンピドーセンターでカフカ展が開かれていた。もう時効だと思うのだけど、メトロの駅に貼られていたこのポスターを彼はぼくへのみやげとして剥がして持ってきてしまったのだ。
このポスターをきっとぼくが気にいる!と、彼は咄嗟に思っての衝動的犯行だった。
彼の見立ては正しくて、ぼくは家を引越してもいつもこのポスターをぼくの部屋に飾っていた。
そして5年半前から、つまり、お店を始めてからは、ぼくのお店の階段下の壁面にこうして飾られている。
さらに、階段をのぼった2階回廊で、カフカの変身展を企画して14名の作家の作品を展示している。
信仰心とは関係なく、不思議な縁を感じたりしてる。
このポスターをくれた彼は今どうしているんだろう。彼の波乱の人生は、少しは穏やかなものになっていることを願っている。
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