2021年5月31日月曜日

【20210531:月】+++2021年5月もバイバイ+++



■□

慣れっていうのは恐ろしい。

緊急事態宣言というただごとではない、のっぴきならない事態にぼくらは陥ってるはずなのに、それにも適応してきている。きっと何にだって慣れてしまうんだろうな。

緊急事態と言いながら、オリンピックは相変わらず何があってもやるつもりなんだから、緊急事態の説得力は薄れるわね。さらに首相の答弁もはぐらかし一辺倒で、リーダーシップのかけらもないときてる。そのことを見透かしてるように、国際オリンピック委員会の意向が開催国の事情よりも優先するって、いくらなんでもそれに甘んじてはいけないんじゃないの?

どんどん話が5月のことと離れていくけれど、あとで振り返れば、これが今年の5月の特徴的なイメージなのかもしれないからもう少し思ったことを綴っておこう。

ぼくはJOCの会長を女性に代えたからと言って、現在の組織の体質はほとんど変わっていないと思っている。生物的に女性というだけで、女性を起用するのは、あまりに形式的にすぎる。仮に構成メンバーの半分を女性にしても、総合的、俯瞰的に考慮し、判断、決定しようとせず、男性社会に忖度するばかりなら意味がない。

平時でない、非常時に、リーダーの真価が問われると言われるけれど、リーダーの不在だけが、そして旧態依然とした組織の在り方があぶり出されただけになってしまったな、とぼくは思ってる。

・ 

・・

お客さんも先月に比べると宣言のために(と思いたいのだけど)減ったけど、それは仕方ないね。

ぼくはいつも通りお店を開けて待つだけです。

ぼくにとっては、そんな5月だっなぁ。

*今日の写真はぼくの『号泣映画』、6時間という長編イタリア映画『輝ける青春』の登場人物マッテオ。一緒に見たいけど、長すぎるよね〜。


2021年5月30日日曜日

【20210530:日】+++人生の先輩とかモデルとか+++

 


■□

Mさんが初めて50ccのカブに乗ってやってきた。

新車で購入し、ほとんど乗らず、何年もガレージの奥で二重のシートをかけて保管してたそうだ。なんでも50周年記念の限定3000台の1台だと言う。

バイク屋に売ってくれと言われたそうだが、逆に8万円かけて整備してもらって乗ることにしたそうだ。

ぼくよりおそらく10歳くらい歳上のMさんだけど、そんなアクティブなMさんを見てるとぼくは嬉しくなる、元気づけられるのだ。

ぼくも彼のように年齢にとらわれることなく、いつまでも前向きに、好奇心を失わずに生きてゆこう!とね。

Mさんの子どもみたいなところ、ぼくもみならっていきたいなぁ。

颯爽とイカしたカブにまたがって帰っていく姿を見送りながらぼくはそう思ったよ。



2021年5月25日火曜日

【20210525:火】+++マイナンバーカード+++

 


■□

マイナンバーカードをもらいに区役所へ。

2ヶ月ほどかかったね。

未成年の子も親と一緒に来てもらってた。

これがどう管理されていくのかな?

ぼくは金持じゃないので、銀行口座と紐付いても関係ないからいいか。

区役所から帰ってきて、空が秋のように高くて、清々しかったので、天白緑道を歩いてみた。

1万歩以上歩いたのは久しぶりだった。

頭の中がすっきりした。

でも、マスクはしんどいね。



2021年5月22日土曜日

【20210522:土】+++7月個展打合せ+++

 


■□

夕方から7月個展の熊本さんと打合せをした。

打ち合わせの中でぼくが個人的に感じたキーワードは、

彼女独自の強い『こだわり』だ。

当たり前だけど、こだわりの無い作家なんて居ないわけだけど、彼女のは竹を割ったような、手抜きを一切しない、モノづくりに対する飽くなき『こだわり』だった。

しかも、生まれながらの性質に任せてのことではなく、冷静に考えて選択されている、いわばコントロールされた『こだわり』なのだ。

自分の好きがはっきりわかっている人が羨ましい。彼女もそんな一人と言える。

彼女が興味をもって注目するモノの対象は電線だったり、工事現場で見られる重機だったり、それ自体もユニークだけれど、その質感を自分が好きと思えるようになるまで徹底的に手間と時間をかけて作り込んでいくわけだ。

彼女にとって、その手間と時間はどうでもいいことで、自分がこれだと思えるものを作り出すこと、自分の好きに嘘をつかないことこそが最優先事項というわけだ。

そんな潔さも彼女の特徴の一つかな。

マニアックな磁器展になると思う。

楽しみだよ!

2021年5月21日金曜日

【20210521:金】+++なんと展示作業までやれてしまった+++

 


■□

異常なまでに早い梅雨入りの中、6月個展の写真家竹谷出さんと、展示の打合せ。

どこに何点展示するか検討していたけれど、お客さんが来ないので、ついでに展示作業までやってしまえと言うことに。

待望のお客が来た時には、もうほとんど展示作業も終わっていた。

個展初日前にこんなに早く展示作業がほぼ終わったのは初めて。あとは掲示する資料やネームプレート、プライスプレート等小物を用意して貼るくらいかな。 

展示初日まではもちろん回廊に上がれませんが、下から様子はわかります。

お疲れ様でしたー。



2021年5月17日月曜日

【20210517:月】+++山極寿一を好きなわけ+++

 


■□

ぼくが好きな人の一人。

前学術会議会長で、前京都大学総長でゴリラの研究者。

なぜ好きかというと、人間としての懐が広く深いことと、自分の考えを歯に衣着せずにいうところ。しかも喧嘩ごしではなく、どことなくユーモアを感じるところ。

昨年末の年越し特番だった村上ラジオに彼がゲスト出演した時に初めて彼のスケールの大きさをぼくは識ったのだった。まさに、頼れるゴリラのリーダーという感じ。

その時ips細胞でノーベル賞を受賞した山中伸弥も出演していたのだけど、山極寿一との差が歴然としてしまって、ぼく的にはなんとなく彼を苦手に思っていた理由が腑に落ちたのだった。

彼は決して権威的だったり、威張ったりするぼくの嫌いなタイプの人ではないけれど、言うなれば、あらゆる意味で『優等生的』なのだった。温厚で優秀な官僚タイプというのかな。偏った考え方をせず敵を作らない人なんだろう。いろんな方面に配慮を払うことのできる人なんだろうと思う。

だから、その番組での発言がつまらなかった、とてもね。

ついでに『つまらない』つながりで言うと、NHKラジオの「らじるの時間」の吾妻謙も、『ごごカフェ」の武内陶子も同じ理由でつまらない。言うことが優等生的だからだ。

「すっぴん」の藤井彩子の時は午前中よく聞いていたが、今はまったく聞かなくなってしまった。

そんなわけで、ぼくは私見を訊かれれば、はっきりと考えを述べる山極寿一が好きだし、ぼく自身もそうありたいと思っている。

*写真は最近読んでる本。ストルガツキー兄弟のは、『そろそろ登れカタツムリ』に続き2冊目。

*村上ラジオから転載。長いよ。まずは山中氏。

----------------------------------------------------------------

村上それにしても、今回の「コロナ」は突然のことですよね。突然、猫又に襲いかかられたみたいで……。混乱しますよね。

山中ちょうど1年前に、中国の武漢で訳の分からない肺炎が出ているというニュースがあったわけですが、こんなことになるなんて誰も予想していませんでした。僕は2月に京都マラソンを走りまして、自己ベストを更新しましたが、天気が悪くて寒い日でした。

村上一緒に走ったんですよね。でも僕は脱落してだめだったんです。生まれて初めて完走できなかった……。悔しくて、今年中になんとかしようと思っていました。

山中京都で働いている者として責任を感じます(笑)。

村上いやいや。でも、あの2月の京都マラソンを最後に、マラソン大会が開かれていません。

山中あの時はまだ、中国から新型ウィルスが少しずつ広がっているのは分かっていましたが、ここまでになるとは思っていませんでした。

村上あまりに唐突のことだったので、専門家とか政治家とか、かなり読み違えをしていたように思います。

山中はっきり言って、科学者でこういう状況になると予想できていた人はほとんどいませんでした。専門家の方でも、1か月後は読めないし、2週間後でさえ読めなかった。僕はサンフランシスコに毎月行っていたんですけど、昨年2月が最後になっています。その時に、アメリカのウイルスの専門家の話を聞きましたが、この新型ウイルスに注意は必要だが、1万人以上亡くなっているインフルエンザに比べたら、そこまでパニックになる必要はないし、咳などの症状のある人でなければマスクもあまり意味がないと言っていました。僕も「そうなんだ」と思って日本に帰ってきたのですが、1か月後には全然違う話になりました。専門家でも誰も予想できなかったんです。いまや、米国では30万人以上亡くなっています。

村上ただ僕は科学者のことはよく知らないんですけど、政治家って過ちをあまり認めませんよね。

山中うーん、認めておられる方もいますけど……。「会食はごめんなさい」と謝っていましたが、ああいう態度は必要でしょう。いまエビデンスがない状態ですから、その中で判断しなくてはならない。間違えるというか、結果が裏目に出ることはあると思うんです。「判断が間違ってました」「方向を修正します」と言っても、それは当たり前なのです。残念ながら、こういうコロナの状態はまだ続くので、もう少しがんばってほしいですね。

村上今日は、山中伸弥先生にお話を伺っています。僕は一人の人間として、また作家としてこう思うんです。「コロナ」は、この世界の流れ、たとえば「グローバル化」「気候の温暖化」「SNSの普及」「ポピュリズムの台頭」「貧富の差の拡大」みたいな世界の全体的潮流の一部ではないかという気がしてならないんです。まったく関係がない突発的な疫病なんだけど、そういう流れの一部なんじゃないかと感じるんです。

山中たしかに今、アメリカやヨーロッパでも、自国ファーストとか、以前と異なる考え方が広がりつつあります。そんな中で襲ってきたコロナ禍ですから、人類が試されているというか、ウイルスにはそんなつもりはないでしょうけれども、「これまでの人間や社会の在り方はこのままで良いのか」と、コロナによってもう一度私たち全員が考えさせられているんじゃないかと思います。僕は過去13~14年間、毎月アメリカに行き、合間にヨーロッパに行っていたんです。数えてみたら、地球200周くらいしてるんですね。

村上すごいですね。

山中僕は、この地球を200周したくらいしか特技はないんですが、それがこのコロナでパタッと終わってしまって……。こうした流れに人類はどう対応できるのかと思います。

村上グローバル化が善であるかのような風潮がありましたが、結構、ひっくり返っちゃいましたね。

山中いやあ、まさかこんなことになるなんて1年前には誰も予測できませんでした。でも逆に、これがいつまでも続かないとは思うんです。実際、アメリカやヨーロッパではすでにワクチンの接種が少しずつ始まっています。中国やロシアでは自国で開発したものをどんどんやっています。やがて日本にもワクチンが入ってきて、すべてがうまく行けば、2021年の後半くらいにはだいぶ収まってくるかもしれません。でも、ワクチンしだいですね。どのくらい効果があるか……。

村上ウイルスがどう変異していくかなども、まだ分からないですね。

山中いま、英国発の変異型が出てきて、もしかしたら日本に入ってきているかもしれません(※12月31日放送当時の発言です)。さきほど言いましたように、専門家でも2週間後、1か月後も読めないので、僕も何とも言えないのですが、相当に運が良くて色んなことがうまく行けば、半年後くらいからだいぶ収まってくる可能性はあります。そうならないかもしれませんが……。長期戦になることは、覚悟しておかなければなりませんね。

村上僕は、コロナ問題の本質は、「この先何が起こるか分からない」という予測のつかない点にあると思うんです。「分からない」ということが、恐怖とか怒りとか、逃避を生んでいく。それが一番恐いことなんじゃないかと思います。

山中これまで、日本での新型コロナそのものによる死者数は、ヨーロッパに比べて人口当たりで何十分の一です。しかしその被害以上に、偏見であったり差別であったり、そうした被害のほうが大きいかもしれません。単なるウイルスによる被害だけじゃなくて、人間の相互作用で増幅されてしまっているというか、特に日本はそういうところがあります。

村上新型コロナウイルスという病原体と戦うだけではなくて、ネガティブな「精神的病原体」とも戦っていかなきゃいけない。そういう両面があるんですね。

山中今日(2020年12月31日)の東京の感染者は1300人を超えている状況ですから、ここは本当に踏ん張りどころではないでしょうか。1月と2月、かなり本気になっての対策が求められます。ワクチンはぜったい間に合わないわけですから。

村上国民が肚(はら)を据えて対策を取るには、政治家が明確なメッセージを発しないとむずかしいところがありますよね。

山中これは、ぜひ強いメッセージを、ぶれないメッセージをお願いしたいです。

村上でも、そういう言葉を使える政治家は、今、見当たらないですね。

山中ヨーロッパでは、科学者でもあるドイツのメルケル首相などは、相当説得力があります。

村上やはり、自分の言葉を持たないと政治家にはなれないと僕は思うんです。自分自身の言葉を持たない政治家というのは、ブルース・コードが弾けないエリック・クラプトンみたいなものですよね。よくわからない喩(たと)えかもしれないけど(笑)。
腹を割ってきちんと話せる政治家が出てきてほしい。そうしないと、人の心というのはなかなか落ち着かないと思うんです。

山中強いリーダーシップとぶれない姿勢が求められていると思います。

村上今の世の中は、みんなヒーローを求めているんだけど、逆にヒーローが出てくるのを阻害する方向にも向かっています。

山中たしかに日本では何か発言すると、すぐに足元を掬(すく)われたりするので、慎重にならざるを得ないというのは、理解できないことはないのですが……。

村上でも官僚的になるのは、いちばんまずいですよね。

山中特に今はリーダーシップが必要で、日本全体で心をひとつにしてがんばらないと乗り越えるのはむずかしいのではないか、そういう所まで来ているんじゃないかと思います。

村上山中先生は、やはりワクチンが物を言うと期待しておられるわけですね。

山中でも、ワクチンは健康な人に打つもので、日本でも何千万人単位で打たないと、本当の意味での「集団免疫」という効果は期待できないと考えられています。それだけの人数に打って、たとえ10万人に一人、1万人に一人の稀な副作用であっても、1千万人の単位で打つとたくさんの人に起こる可能性があります。これまで前例のないことですから、分からないことだらけです。

村上でも、新しい2021年はマラソンレースを走れるといいですね。

山中そうですね。今、いろいろな人が人生の目標を中断されていると思いますから、何とか収束するように、みんなで頑張りたいと思います。

村上僕も7年間ぐらい飲食店をやっていたので、お客が来ないということがどれだけ辛いことか、すごく骨身に沁みてよく分かります。飲食関係の方々は本当にたいへんだと思いますが、がんばってください。

山中辛いですよね。みなさん、がんばりましょう。

村上山中先生も、走って、研究をして……。

山中はい、研究第一にがんばります。

---------------------------------------------------------------- 

次は山極氏

----------------------------------------------------------------

美雨この後は村上春樹さんと霊長類学者・山極壽一さんの新春スペシャル対談です。山極さんは今年9月まで6年間、京都大学総長を務めました。そして日本学術会議の前会長でもあります。どんな話が飛び出すのか。お楽しみください!

村上次のゲストは山極壽一先生です。こんにちは。

山極明けましておめでとうございます。これ、僕の年賀状です。

村上あ、おめでとうございます。牛とゴリラが並んでますね。

山極ここでひとつ質問です。同じ草を食べても、牛はげっぷ、ゴリラはなんでしょう。

村上ゴリラも草を食べるんですか?

山極草は大好きですよ。あんな大きな身体をして、お腹が大きいというのは草を消化する臓器を持っているということです。

村上なるほど。牛は反芻してげっぷですよね。うーん、とするとゴリラはおならですかね。

山極そうなんですよ。ゴリラは腸内にたくさんの細菌をかかえています。牛は胃の中に細菌がいるからげっぷが出るわけです。

村上ゴリラのおならは臭いんですか?

山極いや、全然臭くないんですよ。

村上それはいいですねえ。

山極とても健康的な音がします。今年はね、それで行きましょう(笑)

村上この前京都でお目にかかったのは京大総長と日本学術会議会長を辞められた直後でした。久しぶりにお目にかかりましたが、元気で若々しくなっていて、それまでが余程たいへんだったんだと思いました。

山極京大総長が6年、学術会議会長が3年でしたが、本当に疲れました。

村上向いていなかったんですか?

山極向いてませんね(笑)。でも、両方ともゴリラになったつもりでやれば、何とかなるかなと思ってたんです。

村上ゴリラになったつもりって、どういうことですか。

山極シルバーバックという背中の白い大きなオスがいるんです。これは群れでみんなに慕われるリーダーなんです。ゴリラにはリーダーの素質というのがあって、それを学べば学ぶほど、人間のリーダーに似てくる。たとえば、「背中で語る」とか「愛嬌がある」とか、「運が良さそうに見える」とか……これはもうゴリラのリーダーの条件なんです。だから、メスと子どもがついてくる。

村上なるほど、そういうことですか。

山極「背中で語る」というのは強さの証明です。つまり後ろを見なくても分かっているということだから。そういうことをゴリラに学びましてね。そしたら、ちょっと楽になりました。

村上とすると、日本の政治家はゴリラの世界ではリーダーになれそうにない気がするんだけど。

山極 そう、ゴリラに学んでほしいんです。いま、日本の政治はサル的になっていて、もっと言うとサルからチンパンジー的になってしまっているように思います。

村上ゴリラは違うんですね?

山極サルは力関係なんです。俺が強いんだぞという「強さ」を示して他者を従わせる。「人(サル)格」は関係ないんです。

村上ゴリラは「人(ゴリラ)格」がちゃんとしていないと、みんながついて来ないわけだ。

山極そうです。ゴリラのリーダーは、みんなから押し上げられるわけです。だから、気を遣って、子どもの保護者として気を配らなければなりません。そうしないと誰もついて来ない。

サルのメスは生涯、その集団で老いるんですが、ゴリラの世界ではそのリーダーが嫌ならメスが出ていってしまう。だからオスは大変なんです。

村上ゴリラのユニットというのは何頭くらいなのでしょう。

山極10頭から15頭というのが普通で、だいたいその位です。

村上ところで、山極さんはこれからどうされるんですか。京大総長もお辞めになり、日本学術会議の会長も退かれて、あとはゴリラ三昧の日々を送られるんでしょうか。

山極そうしたいところですが、コロナでなかなかゴリラのいるアフリカに行けないんです。

村上でも、お話を伺っていると、山極さんはゴリラの世界と現実の世界と二重生活ですよね。

(*ポコポコというゴリラのドラミングの音が流れる)

山極春樹さんの小説を読んで、「ああ、同じだ」と思いました。パラレル・ワールドなんですよ。
僕がゴリラの世界に行くと、ゴリラの仕草を真似て、ゴリラの気持ちになったつもりで集団生活をするんです。そこで「私」はゴリラとして生きるわけです。でも帰ってくると、「人間」としてふるまう。だから、春樹さんの小説と似ているなあと思いまして。

村上作家というのも、結局、現実の世界と物語の世界を行き来して生きているんですよね。学者もそういう人がけっこう多いと思います。

山極とくに動物学者は、自分の研究しているものにだんだん似てくるんです。ミミズの研究者なら、ミミズに似てくるとか。

村上あまり、似たくないような気がしますけど(笑)。

山極いや、何を研究しているかってすぐ分かりますよ。

村上へえ、すごいですね。

山極今年は丑年ですけど、私の背後霊はゴリラなので、いつも「ゴリラ年」です。

村上サルの研究をしている人とゴリラの研究をしている人は、だんだん性格も違ってくるんですか。

山極だいぶ違うでしょうね。やっぱり、群れに入るとその群れのルールに合わせますから、どうしても似てくるんです。

村上ゴリラはコロナに罹(かか)らないという話を聞いたんですが本当ですか。

山極いや、罹るんじゃないですか。 だって、インフルエンザに罹りますから。

村上そうなんですか。

山極ゴリラは人間のように汚くなくてきれいですから、人間に接触するとどんどん病気に罹って死にます。そういう例はたくさんあります。アフリカでは、ゴリラもチンパンジーもインフルエンザに罹ってたくさん死にました。

村上新型コロナの例はないんですね。(※放送当時の内容です。1月に入ってからアメリカでゴリラのコロナ感染が確認されています)

山極まだないですね。でも危ないので、今はどこでもゴリラと人間の接触は禁止しています。

村上山極さんがアフリカに行けないというのはつらいですね。

山極そうなんです。だから、ときどき動物園に行ってゴリラを拝んで力をもらうようにしています。

村上動物園のゴリラとジャングルのゴリラは感じが違うんでしょうね。

山極ゴリラの自然生活は、自分で餌をとるところから始まるので、飼育員から餌を与えてもらう動物園のゴリラとはだいぶ違ってきます。

村上ところで、学者にしても芸術家にしても、片足を違う世界に突っ込んで、もう片足を現実の世界に置いて生きています。学術会議もそういう人たちが集まってくるわけですよね。

山極宇宙をやっている人は、星になったような気持ちになってるだろうし(村上、笑)……。そういう人が集まっている世界ですね。

村上そういう人たちが集まって意見を出して、それを政府に提言するわけですか。

山極世界中の学者と繋がっているわけですから、政府というよりもいろんなことをやっている機関や組織に対して、「学術の立場からはこういう風にしたほうがいいですよ」と世界的な見地から見て、色々提言を出しています。私が会長だった3年間にも、議論を続けて、89に上る提言や報告を出しましたね。

村上言うことを聞いてくれることもあるんですか。

山極うーん、聞いてくれる場合もあります。政治の世界だけじゃなくて、教育や福祉の世界など様々なところに提言を出しますから。

村上そういう人が集まって意見を出すのは大事ですよね。

山極専門家の意見は大事だと思いますよ。「このことに関しては誰よりもよく知っている」と自負している人たちが集まっていますから、傾聴に値するものが多いんです。

村上そうじゃないと、たとえば官僚的なロジックが幅を利かせて固まっちゃうということも起きて来ますよね。そういうものに風穴を開けることはすごく大事だと僕は思います。そのあたりを後半に伺いたいと思います。

村上さっきの日本学術会議のことなんですが……。あ、ポコポコという音が聴こえてきました。ゴリラのドランミングですね。

山極これは僕がアフリカでゴリラの調査をした時に録音したものなんです。ドラミングは、ゴリラのシルバーバックが自己主張する時と、休息が終わって群れが出発する時の合図なんです。

村上映画「猿の惑星」では、胸の叩き方が間違っていたんですよね。

山極ゴリラは拳(こぶし)ではなくて掌(てのひら)で叩くんです。映画は間違いなんです。戦うんじゃなくて、「さあ、行くぞ」という号令みたいなものです。今年はぜひ、これで前に進みましょう。

村上ところで、さきほどの学術会議のことですが、提案を80くらいして、聞いてくれたり聞かなかったりするわけですよね。でも、なんで政府はあんなに煙たがるんですか。

山極よく分からないんだけれども、9月の終りに、日本学術会議が半年かけて新会員を選んで(会員定数は210人)、改選される105人のうち6人を政府が任命拒否したというのは、腰を抜かすほどびっくりしました。私は菅総理に、「じゃあ、理由は何ですか」とお聞きしたわけです。そしたら、理由は言えないと。

村上変わってますよね。

山極問答無用だっていうわけです。これが民主主義国家かと思いましたよ。つまり、さきほど言った「サルの政治」になってる。力で押さえる政治だからね。もう一つ言えば、いまはチンパンジー的な派閥政治にもなっています。
「もう少しゴリラを見習えば、もっと平和な政治になる」と言いたいですね。

村上ゴリラは偉いんですね。
それにしても、政府は学術会議の提言なんて聞き流せばいいじゃないですか。

山極そう、そもそも政治家と学者の役割は違う。学者はきちんと自分の専門領域にしたがって提言を出す。政治家はそれを聞いて、政治に生かすか生かさないかは彼らの判断次第なんです。問答無用なんて、やはり、こうなっちゃいかんじゃないですか。何を恐れているのか。学者なんて、政治にとっては取るに足らん存在なのだから。

村上切り離せばいいんじゃないかと思いますけどね。

山極あまりにも国を先導する自覚と自信がない、いまの政治は。

村上古来、多くの為政者は気に入らない者を苛めてますよね。スターリン、ヒットラー……。

山極独裁者たちですね。でも、彼らがしたことはみな負の遺産として葬られました。やはり、いまの民主主義というのは良い政治システムなんです。だから守らなくちゃいけない。ゴリラのように、胸を叩いた後はみんなの様子をうかがって、みんなの言う通り動くということをしなきゃいかんのです。

村上秦の始皇帝は「焚書坑儒(ふんしょこうじゅ)」というのをやりました。書物を焼き、土に学者を埋めてしまう。

山極あった、あった(笑)。

村上作家もたぶん埋められちゃいますね。でも、周りにイエスマンばかり置くと、政治って腐敗するんじゃないですか。

山極マイナーな意見とか、反対の意見を聞きながら、それこそ菅総理が仰るように「総合的、俯瞰的に」世の中を判断する必要があると思うね。
あ、それから、今日ちょっと春樹さんにお訊きしたいと思ってたことがあります。「品川猿」「品川猿の告白」という短編小説をお書きになりましたね。僕は猿の研究者でもありますが、われわれは猿に名前を付けて猿の世界に入って行くんです。

村上一匹、一匹に名前を付けるんですか。

山極そうです。それぞれに名前を付けないと彼らの世界の動きを理解できないんです。「品川猿」は人間の名前を盗む猿ですよね。名前を盗んで、人間と親しくなる。人間の世界に踏み入ってくるんです。これを読んで、僕は猿と人間の「鏡の表と裏」みたいな感じがしたんです。あれは、なんで名前を盗むということにしたんですか?

村上もし僕が猿だったら、人間のアイデンティティの一部を盗みたいという気持ちになるんじゃないかと思いまして。つまり、「もし僕が猿だったら」という仮定がある。普通の人はあまりそんな風に思わないかもしれないけど。

山極たしかに、われわれ研究者も猿に名前を付けることで彼らのアイデンティティ分かって来ます。

村上ゴリラは15頭ぐらいだから名前を付ければ覚えられそうですが、ニホンザルの猿山なんかは大変ですよね。

山極いえ、全員覚えてますよ、僕は。

村上え、そうなんですか!

山極100頭から200頭ぐらいの群れでも、ちゃんとすべての顔と名前を一致させることができます。猿が夢の中にも出てくるんですよ。後ろ姿、しっぽの形でも分かる。こいつは、あれだとか。われわれ人間はそれだけ違う生物にも同化できる能力を持っているんです。猿は人間の名前を覚えられないと思いますが。

村上山極さんは、全部記憶しているわけですか。

山極覚えています。この家系は植物の名前とか、名付け方が系統立っているから記憶できるんですね。

村上自分で言うのもなんですが、「品川猿」という作品は割と人を惹きつけるみたいで、外国でも質問されることが多いんです。

山極長野県の地獄谷という所に猿の温泉があって、今やそこはヨーロッパ人に大人気で観光客の半分以上はヨーロッパ人なんです。猿が温泉に入る、人間も温泉に入る。僕もあそこの猿を研究した時は、夕方、猿の温泉を掃除したあとに入ってました。「品川猿」は、温泉で主人公の背中を流してくれるじゃないですか。いやあ、これはそっくりだと思ってね。

村上突然、猿が温泉に入ってきて、「背中を流しましょう」と言われたらちょっと断れないですよね(笑)。断ったら気を悪くするだろうなあと思うと、つい「お願いします」と言っちゃいそうで。

山極たしかに目に浮かぶようですよ。

村上今度機会があれば、もっとゴリラの話を聞かせてください。なかなか興味深いですね、ゴリラの世界は。

山極ゴリラの世界は手ごわいし、まだまだ面白い。

村上コロナが早く収束して、アフリカに行けるといいですね。そうでないと、山極さんが人間の世界に同化しちゃいそうですから。

山極ははは(笑)

村上今日はどうもありがとうございました。