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背の高い痩せ気味の男性が入ってきたとき、ぼくにはそれが誰だか全くわからなかった。
その男性は扉の前に立ったままずっとぼくの方を見ていた。まるで『俺がわかるか?』と言いたげな表情で。
ぼくは知り合いの人かもしれないと、彼の顔とぼくの記憶の中の人物とを頭の中で照合し始めた。しかし、全く該当する人物が浮かび上がらなかった。
それほど彼はスマートになり、目つきや顔つきも変化していた。
30年ぶり、いやそれ以上だ。40年ぶり以上かもしれない。
ぼくの記憶の中の彼は仕事柄目つきがとても鋭く厳しかった。
学生時代の彼はどちらかといえばお喋りでユーモアもあり明るいタイプで冗談を言い合える間柄だった。ぼくの部屋に夜中まで居たり、逆に彼の部屋に泊まったことも何度もあった。これからどう生きたいか朝まで語りあったこともあった。一緒に旅したこともあった。
ところが彼が就職して一年ほど経ち、居酒屋で再会した時の彼の目つきはとても鋭いものに変わっていた。世の中全て犯罪者ばかりと言わんばかりの目つきだとぼくはその時思った。今思えば、その頃から彼とは住む世界が違ってしまった感じがして、徐々に彼との距離が遠のいていったのだった。
以前、他の知人から聞いた話によると、彼は随分と出世したのち定年退職し、最近は瀬戸川沿いの遊歩道を歩いてる姿をよく見かけるそうだ。
でも、きっと今でも目つきの鋭いままの彼だろうとぼくは勝手に想像していた。
彼が名乗ってもぼくは40年前の彼と脳内でしばらくシンクロできないままでいた。
メガネの下の彼の目を見つめるうちに、まるでボケていたピントがぴたりと合っていくように、昔の彼の面影と一致した。
『目が昔のままだ!』とぼくは彼に言った。
彼の目つきはもう厳しくも鋭くもなく、ぼくの知ってる柔和なものに戻っていた。まるで高校生の頃の彼を見るようだった。
そしてその後彼と近況報告も含めあれこれ語った。他にもお客さんが居たけれど、ぼくは彼の隣に座って自分の話をし、彼の話を聞き続けた。どれだけ話してもどれだけ聞いてもネタは尽きないように思われた。
また別のお客さんが来店したのをきっかけに彼が帰るために立ち上がるまで僕らの話は続いた。
ぼくは改めて、VOUSHOをはじめたからこそこうして彼との再会が実現したんだと思った。
本当に会えてよかった!
彼はぼくが生きてるうちに再会したい一人だったからだ。
そう思うなんて、ぼくの人生も本当に終盤のロスタイムになってるってことなんだろうね。
再会できて本当によかった。
来てくれた彼に対してと、この再会に至った偶然の重なりにありがとう!
*彼と並んで自撮りした写真が上手く撮れてなかった。その時居らしたお客さんに頼んで撮って貰えばよかったなぁ〜。柄になくちょっと遠慮しちゃった。
今日の写真は昨日の朝焙煎した直後の店内。煙が天窓の光に反射して光の束ができていつ見ても綺麗なんだよね。
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